厳寒期にコンタクト率を少しでも上げる方法


 厳寒期の鯛ラバは、魚の活性が最も低い時期なので、それなりの対策が必要である。まずは、船を流すエリアをより広範囲にすることが大切だ。船が動かなければ、まず釣れない。マダイは単独で、あちこちと餌を求めて移動している。ぽつり、ぽつりと点在しているマダイに出会わなければ、釣れない。出会っても大抵は低活性なので、なかなかルアーを追おうとはしないものだが、なかには、空腹で我慢しきれずに寒さを忘れて捕食スイッチを入れるものいる。コンタクト率を上げるには、より多くのマダイに出会うようにすることだ。船がよく流れるエリアを求めて移動するのが最も賢明な方法だ。先日の実釣では、前半は船が動くエリアを予想できなかった為に、まったくアタリが無かったが、後半、高速で船が流れているエリアに巡り合うことができて、突然のように、アタリが出るようになった。速く流れていれば、それだけ多くのマダイに遭遇し、食い気のあるものにも出くわす。日によっては、どこへ行っても低速でしか流れないこともあるが、フォールして7、8回の30巻きリトリーブをしてアタリが無ければ、回収して次のポイントへ移動するという手間を掛けることによって、船が流れないという低条件をカバーするしかない。いわゆる、ランガンが有効である。

 ショアな釣りでは、自らの足でポイントを稼ぐが、キャストの範囲は限られているので、奥行きが無く、深場は難しい。オフショアなら、エリアはほぼ無限で、浅場から深場まで丹念に探ることができるのが強みである。船の流れが時速1.5km以上であれば、「放浪流し」と言って、潮に乗せてそのまま流しつつリトリーブを続ければいい。島周りは岩礁地帯なので、海底の起伏が大小様々にあり、ただ流しているだけで、点在している魚たちの棲家の上を次々に通るというのがその理由である。船が流れていない場合は、船の機動力を活かし、50m前後の距離で、ポイントを変えていくことで、コンタクト率を上げるようにしている。非常に面倒だが、マダイとの接点を増やすことでしか釣果は稼げない。悩ましいのは、1.0km前後で流れている時である。0.0kmよりはずっといいが、適温である時期ならともかく、最低水温の時期ではマダイとのコンタクトは難しい。ほとんど流れない時はワンフォールで移動するところを、この船流速度の時は、スリーフォールくらいで反応が無ければ、エンジンをかける。いつ移動するか。その見極めが、船長としての腕の見せどころなのかも知れない。

 リトリーブの速度も大切になる。ひと言で表すならば、「自然の状況に合わせる」ことだ。水温が低いと、たいていの生物は動きが緩慢になる。まずは、それに合わせるようにしよう。つまり、低速リトリーブが基本になるだろう。低速と言っても、ベイトが逃ていくような最低限の演出は必要なため、あまりにゆっくりだとタイラバを追う頻度が減る。他の時期に比べて、2、3割減くらいで巻くとよい。アピールの時間をやや長めにするという効果もある。錘にかかる潮の抵抗に応じて速さを変えると更によい。「潮馴染み」といって、潮に馴染ませるようにリールを回す。船が高速で流されている時ほど、ゆっくりとしたリトリーブを意識し、遅い時は、回転数を上げて、いつも同じような抵抗がタイラバにかかっているようにすると、コンタクト率は上がる。日ごろから、「潮馴染み」を意識し、鈎掛かりに成功した際の潮の抵抗を覚えておくようにしよう。私は、アタリが少ない厳寒期は、リトリーブの腕を上げる絶好の機会だと思って、集中してリールを回している。

 アタリがあったのに鈎に乗らない。鯛ラバではよくあることである。厳寒期は、特にアタリが少ないので、それをモノにするかどうかが非常に重要な課題である。寒いのを我慢して数時間も頑張ったのに、本命ボウズでは、やるせない。魚は、タイラバをベイトと勘違いして食ってくるのだが、口に入れた瞬間、それが本物の餌であるかどうかを判断する。そして、素早く吐き出そうとする。食うより、吐き出す方が速い。本能的に異物だと感じて、危険を回避しようとするからだ。鉛やシリコンゴムが食べられないことを、にわかに察知する。捕食行動は一瞬だ。そのごく短い間に、鈎掛かりするかどうか。それが大問題なのである。鋭い鈎先が、その問題の多くを解決する。もし、鈎先が鈍っていれば、掛からずに終わる。また、鋭くても軸が太ければ、深く食い入ったり、貫通したりせずに、バレる。許される限り、細い鈎を使うことで、掛かりを確実なものにする。愛用リールのドラグ性能と相談しながら、できるだけ鋭くて細い鈎を使うようにしよう。鈍くて太い鈎を使っていれば、せっかく鈎掛かりのチャンスが来ても、プレコンタクトか、せいぜいニアコンタクトで終わってしまう。

 最低水温に達すると、マダイがいても食わないようになる。目安は13℃未満。その水温では超低活性となるので、本命ボウズという結果になることは覚悟の上で出船を決意する。素手で海水に触れると確かに冷たく感じるのもこの水温だ。この時期は、積極的に深場をねらうようにしている。私のフィールドでは、80m前後というのが深場の範囲である。幸いにも、厳寒期でも地付きのマダイはいて、産卵に向けて栄養を蓄えるべく、徐々に捕食活動を高めるのもこの時期の特徴である。深場は、50m前後の浅場と比べると、僅かに水温は高い。それは、微々たるものだが、マダイは少しでも過ごしやすい水深を好むので、浅場より深場にいることが多い。大物ほどその傾向にある。深場から浅場に向けて駆け上がっている場所をピンポイントでねらうことも有効だ。駆け上がりには潮がよくぶつかって湧昇流ができ、マダイの捕食スイッチが入りやすくなる。満潮や干潮の前後は特に捕食活動が活発になる。寒さに凍えているマダイたちも、食事時が来た!とばかりに、スイッチを入れる。

 仕掛けの工夫も大切だ。私の仕掛けは、もうすっかり漁具となっていて、もちろん、すべて自作である。錘(おもり)は、舵付きを使っている。最初に糸が通る穴を千枚通し(目打ち)で穴を広げておく。フックリーダーがスムーズに通り抜けるようにするためだ。こうしておくことで、フォール中の錘と本体の分離が起こりやすくなる。分離すると、錘が先に着底し、後から本体が付いてくるのだが、錘の着底と同時にリトリーブを始めるので、本体自体は完全に着底せずに上がっていく。つまり、本体は全く止まらずに動き続けるという演出が可能となる訳である。鉛でリーダーが傷つくことは無いので、穴にチューブなど入れて狭くするのは、本末転倒である。重い錘ほど分離は起こりやすいが、25号(約94g)が最も適度な重さで、私はこれしか使わない。あまりに重いと、着底音がマダイの警戒心を高めるし、本体とのバランスや、ライン、リーダーなどとのトータルバランスを考慮すると、25号が相応しい。私の漁具のなかで、もっとも早く落ち着いたのが、この重さの錘を使うということであった。実際に分離しているかどうかは、リトリーブ開始時に錘の重さを感じるかどうかで分かるようになる。タイラバ本体が、着底を経ても連続的に動き続けるかどうか。厳寒期の食い渋りマダイには想像以上に効果がある。

 今年の冬の大寒波はようやく峠を越え、気温は徐々に上がってきたが、海の中は、例年、三月上旬から中旬くらいまでは厳寒期が続く。日差しが強くなるので、低水温でもプランクトンが発生しやすくはなる。現在の海面温度は13℃で、まさしく厳寒期となった。プランクトン発生前の海中は透明度が高く、いわゆる、澄み潮である。澄み潮の利点は、タイラバが発見されやすいということ。濁り潮のマダイの視界が20mとすると、澄み潮では、その倍の40mになる。それだけ、広範囲のマダイの目に入るのはいいことだ。しかし、同じマダイが同じタイラバを何度も見てしまう可能性も大きくなる。初めて目にすると、「おっ!」と目を丸くして、興味スイッチを入れるが、二度目からはぐっと関心度が下がり、三度めには見向きもしなくなる。船がよく流されていれば、20巻きで大丈夫だが、1.2km前後では30巻きにして、それ以下では40巻きにするといった対策が必要になる。いわゆる、「目線を切る」ことを意識しながらリトリーブすると、よい結果が生まれることが多い。船の流れる速度を熟慮しながら、できるだけフォールの回数を増やすようにすることで、スイッチの入ったマダイと出くわす頻度は上がる。



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