ベタ凪を期待していたが、 予報より波とうねりが高かった。 しばらく港近くで竿を振ることにした。 その一投目の20巻きを三度続けた時だった。
潮ボケが早く、もうすでにラインは100m近く出ていた。 水深は70数mと、深場だった。
いきなりガツッときて、すぐに、釣果音がした。
キュイーーーーーン。 中型くらいだと思ったが、潮の抵抗と相まって、 想定外に、引きが強く感じられた。 おっ、おっ、いいぞ!
巨エソではないと確信した。 もう一度、キュイーーーーーン。
ごり巻きだと、時間が掛かりそうだ。
指ブレーキ&ポンピングで魚を浮かせた。 指にスプールを当て、竿を煽った分だけ素早く糸を巻く。
注意すべきは、決して糸をたわませないということだ。 がっちり掛かっているように感じても、 ゆるんだ瞬間、ふっと鈎が外れることもある。
やがて、船から20m向こうに、 白く見える魚体がぽっかりと浮かんできた。 よし、やった!魚は、玉網に収まった。
美しいオスの良型だった。 体高があって、どっしりしていた。 このタイプの本命がもっとも力強いのだ。
出港から30分もしないうちのコンタクトに、
うれしい驚きを隠せない船長だった。 こういうことはたまにあるが、 たいてい後が続かないという島の海のジンクスがある。
特に、厳寒期には多い。 朝いちばんでコンタクトして、それでお仕舞い。 ということが、過去に何度あったことか・・・。
ジンクスは、ぴたりと当たってしまった。 それから、丸々4時間という長丁場だった。 魚がどこかへ消えたのではないかと思うくらいだった。
2時間もアタリが無いと、うんざりだというのに、 4時間というのはまさに異常としか言いようがない。 厳寒期にはよくある話で、ぐちっても仕方ない。
と、船長は、自分に言い聞かせるのだった。 だが、ふーっという、ため息は何度も出る。 焦燥感によるストレスを解消しようとしていたのだろうか。
それとも、気を紛らわしていたのか。
幸いだったのは、風はすっかりとれて、 穏やかな凪となったことであった。
(中編へ続く)
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