7月16日

コメント

船長は、ふと考えた。

このところ、ゲストは釣るものの、
自分は三日間も、本命ボウズだった。
さすがに三回の出港でボウズが続くと、
ゲストは大物を釣って嬉しいのだが、
なんとなく気持ちが滅入るものだ。

よし、今日は、ジャッキー(ジャストキロ級)でもいいので、
本命を一尾釣り上げてみようと、
ゲスト釣行としては、
いつになく張り切っていた。

だが、弟子の浜ちゃんと、
大ダイハンター女史が乗船しているので、
先を越されるだろう。
愛艇は、ゲスト席のミヨシの方が良く釣れる。

不安は、的中。
さっそくコンタクトがあったのは、
弟子の浜ちゃんだった。
しかし、本命ではなく、キロ級のイトヨリダイだった。

今日は、条件としては申し分なかった。
常時1.4km以上で船が流れ、
糸はインクラインに海中へ入っていた。
昨日によく似ている。

だが、好条件シンドロームのようだった。
好い条件だが、活性は低めで、食い渋り。
たまに興味を示した魚が、タイラバに近付くが、
ネクタイを咥えて終わりというのが続いていた。
掛かるのはイトヨリダイ。

更に、ちょっとした事件が起こった。
周囲に油断していたら、
いつの間にか籠網の旗が間近にあって、
回収指令を発令したが、
時既に遅しで、三名共に、籠網ロープに引っ掛かった。
以前にもまして籠網が増えたようで、
いいポイントのあちこちに点在している。
この籠は、特に質(たち)が悪かったようだ。

籠ひとつならまず掛かることはないが、
一つの旗の下には複数の籠が連なっている。
捨てられたロープに掛かったこともある。

籠やロープに、
タイラバの鈎が掛からないように気を付けていても、
こういう惨事が起こる。
まことに厄介な事件だった。

失った仕掛けを付け直して、
気も取り直して、リトリーブを続けた。

こんな時は、釣果も冴えないんだよなあ。
と、ぶつぶつ不満げに釣りをしているものだから、
タイラバに「気」が入らない。
しばらく、ノーコンタクトが続いていた。

ふと、魚探の画面を見ると、大ダイが映っていた。
「今、この船の下に大ダイがいる。」
と、ゲストに伝えたものの、アタる気配は無かった。

魚探に映った大ダイがコンタクトしたという記憶は、
ごく稀(まれ)にしかない。
どうせ、食って来ないだろうなと思っていた。

船長の竿にもアタらない。
諦めずに再フォールしていると、・・・。

グイ、グイっとタイラバを引っ張る魚がいた。
そのまま巻いていると、ぐぐーっとやや強い引きになった。
そして、・・・。

ギュイーーーーーン。わわわっ。ヒラマサだ〜。
ギュイーーーーーン。ギュイーーーーーン。
半端ない引きが断続的に来た。
ギュイーーーーーン。
僅かに止まった引きを見計らって、高速巻き巻き。
だが、ギュイーーーーーン。
いちかばちかの強めの指ブレーキも、
役には立たず、ギュイーーーーーン。

重量感も半端では無かった。
6月23日にメーター級ヒラマサを掛けた感覚が、
まだ残っていたので、おそらく同じサイズだろうと思った。
もちろんゲストには仕掛けを回収してもらい、
デッキをあちこち移動しながら、
厳しいやり取りに挑んでいた。
ドラグはまるで役に立たない。
指ブレーキの掛け具合を調整しなければ、
取り込むことはできないのだ。

エンジンをかけて、糸が出た方向へ走ろうと思ったが、
魚は後ろへ向かっていた。
低速後進という、かつてなかった操船で、
かなりの量の糸を巻き取ることができた。

だが、まだまだ油断ならない。
ギュイーーーン。引きはやや収まったが、
ずーんとした重さを感じていて、
これで、もう一度力一杯引かれたなら、
無念のブレイクになるかも知れないという、
極度の緊張感があった。

二十分くらいは経ったと思う。
すでに、へとへとだった。
しかし、ここまで頑張って、逃すのは悔いが残る。
僅かに余っていたエネルギーをすべて費やして、
何とかフィニッシュまでこぎつけようと考えていた。

「ぐあーっ。」と声を張り上げながらのポンピング。
何度続けたことだろうか。・・・

ようやく、待ち焦がれていた、
白い魚体が見えて来た。

「ええっー!」と、腰を抜かすところだった。
な、なんと、これ。
ヒラマサではなくて、マダイだったのだ。



93cmの超大型マダイだった。
このサイズにしては、色も体型も美しいオスだった。
これほど、苦労して釣り上げたマダイは、
ほかにないほどの、最高の引きだった。

99%ヒラマサだと思っていた。
ほとんどの大ダイは、中層を過ぎる頃には、
腹に空気が入って、ぷかぷか状態になって、
それ以降は、楽なやり取りになるはずだ。

ところが、このマダイはちがった。
これほど、とんでもなく引いたことに、
びっくり仰天。

すっかり疲れてしまい、
へとへととなった 船長のみ、納竿することにした。

大ダイハンター女史は、珍しく音無しだった。

今年続いていた本命・準本命の連続記録に、
ようやく終止符が打たれるかと思っていると、
竿が弧を描き、キュイーーン。が聴こえた。

マダイでは無かったが、
準本命の超高級魚マハタを釣り上げたのだ。



今回もボウズは免(まぬが)れ、
今年に入ってから、
11回連続で、ボウズ無しとなった。

しぶとく、がんばる人である。




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