小漁師 (作品205)
待ち侘びた凪にひとたび船を出せば 本命一尾を求めて延々と海に浮かび続ける 確かこの時期はここがいいはずだったが いや、あそこがよかったか
港を出てしばらく真っ直ぐに走りながら はたらく勘を頼りに行く方角を選ぶ 少しほつれた赤い旗がぱたぱたとたなびいて 風向きに船を対面させると
待ちかねたようにファーストフォールの泡を追う ハンドルを持ちゆっくりとルアーを引くと 無言のカウントが喉の奥から耳に響く
いーち、にー、さーん、しー、... 潮に逆らいながら疑似餌の尾っぽが僅かに舞い 魚が岩陰から駆け寄って来て、がつんとなるはずが
時間は躊躇うことなく進んでいく 小魚は釣れる 食材になるほどの収獲も数尾既にあって 冷蔵ボックスに収まっている
俺はもう小漁師なんだからと言い聞かせても 心は常に強い手応えを求めている 一日に一度でいい 緊張と期待ががっちり織り込まれた
あの、やり取りをしたいのだ 潮が流れず船を動かすほどの風もない。 ああ、零コンマ零キロメートルのつ(釣)れなさよ
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