今年初の濃霧の中、出船。 視界が極めて悪く、30mといったところか。 スローでしか前進できない。 予定していたポイントへ行くまでに、
途中停船しては、フォールを重ねたが、 たった一度のプレコンタクトがあったのみ。 それも、ぐっという極少な反応だった。
無風、ベタ凪、潮も流れず。 こんな時は、コンタクトするはずもない。
相変わらず、プランクトンもベイトも魚影も、
ポイントを問わず群れていた。 おそらく、タイラバは真っ直ぐ上に、 違和感の塊のように泳いでいるのだろう。 マダイの皆さんは、誰も、気に留めてくれない。
他魚すらまったく反応無し。
おまけに、視界が限られているので、 なんだか恐ろしい。 万が一にでも、突然船が現れて衝突される危険がある。
こちらは小船なので、大破し、海に投げ出されるだろう。 常に見える限りの遠方を(といっても30mくらいだが)
四方八方見渡しながら、他船の動きに集中していた。 非常にストレスフルな釣りだった。 正直な話、緊張の連続なのである。
周りの船からも、愛艇は見えてはいない。 いつしか、「霧隠れ釣三」という忍者になっていた。
まるで釣れる気配もなく、二時間半が経った。
あ〜あ。このまま終わりそうだな。 ふーっと大きくひとつため息をついた。 海面は、べたーっと湖のようだった。 この不気味さは、異様である。
船の流れるポイントを探せばいいとは思ったが、 この霧では、危なくて移動もままならない。 突然、寄せ波がやって来て、船が大揺れになったりした。
ベタ凪なほど、寄せ波は大きくなる。 濃霧の緊張感は、時化のそれよりも大きいのだ。 風が無いので、霧が消えることはなかった。
諦めかけていた、その時だった。 何を思ったのか、海が動いた。 これまで、0.0kmという速度表示にうんざりだったのが、
なんと、1.6kmで流れているではないか。 おっと、これはいい感じで動き始めたぞ。 今日、初めて、コンタクトの予感がした。
がつ、がつっ、ぐいん。コンタクト! ギュイーーーン。ギュイーーーン。 わああ、こりゃたまらん。ギュイーーーン。
指ブレーキも弾かれるような釣果音だった。
ぐい、ぐいっと頭を振り始めた。 疲れたという意思表示をマダイがし始めたのだった。
その後は、重量感のみが伝わってくるようになった。 潮に流されているので、重々しい。 これは、大ダイに違いないと、糸を手繰り寄せた。
だが、型は思ったよりも小さく、 63cmの良型が浮いて来た。
良型のオスが、これほどまでに引くとは。
大ダイを確信させるような釣果音だったのだ。
この流れで、しばらくは釣れ続くと思われたが、 この一尾で、満足の域に達していた。
締めて血抜きをすると、ちょうど三時間が経っていた。
切り身への転換作業も待っているし、 濃霧ストレスで疲れてしまったし。
今日は、これにて納竿することにした。
帰路は、三十分。 ずっと濃い霧の中を船は進んで行った。
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