無風、ベタ凪。 嫌な予感がしていた。 前回とほぼ天候は同じだったのだ。 その時は、激シブに近かった。
このところ、上りダイが集まっていると思われる、 新しいポイントへ向かった。 愛艇で25分間の遠征である。 いざ、船に乗ってみると、
早くリトリーブしたいものだと、気が急く。 30分間が耐えられる限界なので、 私のフィールドもその範囲にしている。
それ以上の遠征は、まず、しない。 しなくても、そこそこ釣れるので、 たいへん、恵まれた環境にあると言えよう。
今日は、「大ダイハンター女史」の乗船だった。 女史は、中型では、まったく不満である。 少なくとも、55cm以上は必要で、
大物(良型以上)を釣ろう!という、 大いなるモチベーションを常に携えている。
中型でも本命ならいいかなと考えている船長とは、
気合そのものが決定的にちがっている。
話はやや変わるが、 もっとも食べごろなのは、良型(60cm級)である。 この頃は、準本命のヒラマサが良く釣れるので、 マダイと交互に毎日いただいている。
自称「世界一マダイを食う男」である。 ギネスブックにでも申請しようかと思うくらい、 マダイの味は、骨の髄まで知り尽くした。
ひと言でいえば、「飽きない」のである。 島のマダイは格別で、ゲストの多くは、 その味に感動して、お礼のメッセージを送信してくれる。
この旨さを深く理解できるようになると、 マダイと鯛ラバのエキスパートになるだろう。
女史の願いを叶えるべく、慎重に始動点を決めた。 風が無いのでラインはバーチカルだった。
だが、前回と大きく違っていたのは、 船が常時、1.1kmで同じ方角へ流れていたことだった。 つまり、上潮が安定して流れていて、
決して速くはないが、潮の動きは確かに良い。
これは、たいへんいい条件である。 風流れよりも、潮流れの方がコンタクト率は上がる。
3月5日に激釣だった時は、やはり、同じような感じだった。 「今日は、釣れるよ。」と、女史に伝えると、 「よーし、がんばるぞー。」と更に、気合を入れていた。
まずは、船長に中型がコンタクトした。
キロを僅かに超えたくらいの中型だった。 オスだったので、キープした。
次に、女史にコンタクトがあった。
45cmのジャストキロ級だった。
小さくても、ぎりぎり本命で、 早くも、全員(2名しかいないが)本命ボウズはなくなった。 これは、メスだったのでリリース。
安心して、始動点に戻し、再び流していると、 船長にコンタクト! キュイーーン。という釣果音が数回響いた。 おおっ、これは良型だとよろこんだ。
メスのような体型と美色を持ったオスの良型だった。 マダイの引きの強さは、色に大きく左右される。 美しいものほど、アスタキサンチン効果で、
健康的なので、引きも強くなるという訳だ。 61cmだったが、オスの大型並には引く力があるので、 楽しくやり取りをすることができた。
早くも本命を三尾。 船長のモチベーションは消えていた。 満足してしまったこともあるが、 前回の激シブ6時間釣行が堪えていて、
かなりの疲労が残っていたのだ。
船長より、女史に掛かってくれないものかと、 願っていたが、またもや船長の竿が曲がった。
50cmの中型だった。メスなので、放流。
同じ始動点に船を戻して、再度流し始めた。 しばらく、反応がなかったが、
満潮前の潮が動いたのが分かった。 いい風も吹いてきて、 今までずっとバーチカルだったラインが、 インクラインに変化した。
すかさず、女史に伝えた。 「いい感じになった。こりゃ、釣れるよ。」 と言うが早いか、 大物らしいアタリが、フォールの途中であって、
みごとにコンタクトした。 キュイーーン。キュイーーン。
竿は美しい弧を描いて、
竿先がしばしば海中へ突っ込んだ。 キュイーーン。 「よし、のがすなよ!」 と激励しながら見守った。
時間はかかったが、
獲物は無事玉網の中へ納まった。
見るからにオスらしい良型マダイだった。 体長は65cmと、最も美味なサイズだった。
これで、女史の目標は達成。
二時間半で、合わせて本命五尾という、 三月五日以来の激釣となった。 良型のイトヨリダイを三尾と、 同じく良型のアオハタも二尾釣り上げていた。
まだまだ釣れそうだったが、 欲を出せば、海の神が好ましく思わないだろう。 微笑んでいるうちに、止めておこう。
港に戻ると、魚をさばき、
二人でせっせとデッキの掃除をした。 いちばん大切な、「船」という大道具を、 大切にしなければ、今日のような好釣果は望めまい。
何より、掃除の行き届いた船は気持ちがいい。
女史の釣るマダイは、どういう訳か、 いつも船長より大きい。
「大ダイハンター女史」といわれる由縁である。
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