暦の上では春となったが、 まだまだ寒い日は続いている。 島周りの海水温も今は最低のピーク。 平年では、中旬あたりから、
最低水温を脱出するはずである。
本日は、
南風の3mという予報だったので、 どうかなと疑心暗鬼だった。 今季の厳寒期は、とにかく渋い傾向にある。 南風なら尚さらに条件が低レベルとなる。 今日も、長時間釣行を覚悟していた。
だが、五時間が精一杯だ。
船長という仕事は、愉しいことこの上ないのだが、 疲労感は並々ならぬものがある。 六時間釣行ともなると、身も心もへとへとで、
最終段階で本命がようやく一尾釣れたとしても、 不思議なことに、達成感は薄れてしまう。
これは、意外だったが、 身体が過労すると、脳も疲労していて、
幸福のホルモン「セロトニン」の分泌が少量になるようだ。 だから、何としても五時間以内に釣りたかったし、 それ以上は、続ける価値も減少する。
疲れ果てる前までに、本命を釣り上げないと、 セロトニン効果が作用してくれないのだ。
最初のポイントでは、 キュイーーン。のあと、鈎外れ。
明らかに本命のアタリだった。
次のポイントでは、チダイがコンタクトして来た。 チダイは大きさの割にはかなり引きごたえがある。 まずは、ひと安心して、おかえりいただいた。
その後、転々と移動していると、
何度目かに、キュイーーン。があって、 今度こそはと思う間もなく、 またしても、鈎外れのニアコンタクトだった。 活性が低いと、マダイの動きが鈍いので、
鈎が突き刺さって貫通するほどの勢いが無い。 鯛ラバでは、魚の活性が何より大事なのである。
さすがに、二度目のニアコンタクトには、 意気消沈を隠せなかった。
コンタクトしていれば、にこやかに帰港していたはずだった。
時刻は正午となり、 規定の五時間まで残すところ、一時間となった。
風がぴたりと止み、0.9km前後で船は動いていたが、 ラインはバーチカルだった。急転直下。 いよいよ条件が冴えないものになっていた。
あらら、こりゃ、本命ボウズだな。と、覚悟を決めて、 残りの一時間、放浪流しすることにした。 諦め気分も慣れっこになっている。
ガツッといいアタリがあったが、
本命ではなかった。アオハタ。 しばらくすると、またもや、ガツッとアタって、 小型のウッカリカサゴが上がって来た。
やっぱりな。こういう条件では、 小型の根魚がいいところだろう。 魚信が無いよりずっとマシではある。
終了まであと二十分に迫っていた時だった。
ガツッ。とまたもやいいアタリを感じた。 また根魚かいな。と思う間もなく、 キュイーーン。キュイーーン。 えっ、えっ、まさか。本命なのか。
こういう条件では厳しい本命のコンタクトであるはずが、 他魚のコンタクトが、 マダイの捕食スイッチを誘発したのだろう。
今度こそは、鈎外れがなく、 キュイーーン。は更に続いていた。 良型くらいはあるだろうか。
引きをじっくり味わいながら、じっくりとやり取りをした。
残り10分間という際どい時刻だった。
56cmの中型マダイだったが、 実によく引いてくれたので、満足感があった。 春の日差しに照らされて、誇らしげに輝いていた。
幸福ホルモンが、たっぷりと脳に行き渡っていく。
五時間未満ならば、
セロトニン効果はしっかりある。 そう、あらためて、実感したように思う。
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