ベタ凪に近かった。 曇り空だったが、南寄りの風で暖かい。 沖のポイントから攻めてみることにした。 わずかにうねりが残っていたが、
程良い揺れもまた気持ちがいい。 ゆりかごに居るような感じである。
船流速度は1.1kmと、
理想的ではなかったが、糸は少しインクライン。 70度くらいの角度を保っていた。 流れる方角が良かった。
しばしば大物がコンタクトするポイントへと流れていた。
むむっ、これは、何かが起こりそうだと感じていた。
大ダイ流れではないが、良型くらいはコンタクトしそうだ。 上げの潮が動き、船流速度が1.6kmにアップした。
すると、満を持していたかのように、・・・。
が、がっ、がつん。コンタクト! キュイーーーーーン。
始めの走りは強烈だった。キュイーーーーン。 およよ。また、ヒラマサだろうか。 いや、そこまでは大きくない。 ヒラゴ程度だろうと思いながら、
やり取りに専念した。
魚種やサイズを想像しながらのやり取りは、 わくわくして、たいへん面白い。
鯛ラバの細仕掛けは、緊張感があっていい。
顔を見せてくれたのは、 美しい良型の本命だった。 60cmをわずかに超えるサイズ。
開始から三十分も経っていなかったのだが、 いい型の、マダイとのコンタクトは、 余裕が生まれ、その後の展開を楽にしてくれる。
ノルマを早々と達成したので、いつ納竿してもいい。 気楽な気持ちでリトリーブができるのだ。 本命をさっさと釣ってしまうのが理想ではあるが、
なかなか、どうして。そう、うまくはいかないのが釣りである。
一本の鈎が唇にガッチリ掛かっていて、
内側にぐにゃっと曲がっていた。 良型といえど、あれだけ強い引きをすれば、 さもありなむである。 幸い、貫通していたので抜けなかったのだ。
釣三丸釣法では、鈎も細いので、 ネットインするかしないかは、紙一重の差なのである。
時合いだと感じていた。
船を始動点に戻し、同じコースを通るように流した。 数々の実績を重ねてきたポイントへ向かって流れていた。
これで、食わぬはずはないなと思っていると、・・・。
ガツン!とひったくるようなアタリがあった。 ひと息にがぶ飲みされたような感触が手に伝わった。
ギュイーーーーーーーン。 今までになかったようなものすごい引きだった。 うわあっ、ヒラマサの大物だ! 当然、駄目だろうと直感した。
これほど糸を出されれば、瀬切れでプッチンとなるだろう。 これまでは、そういうことがよくあった。 とても太刀打ちできないような大物にかかると、
ひとたまりもない。
ところが、・・・。 あれっ?切れていないじゃあないか!
それからが大変だった。 巻いても巻いても上がって来ないのである。 上がって来ないどころか、 ますます糸が出されていく。
思い切って強く指ブレーキをかけ、 いちかばちかの勝負に出た。 そうしないことには、埒が明かないと思ったのだ。 ギュイーーーン。ギュイーーーン。
まさに、格闘といっていいくらいの奮戦だった。
腕がくたびれてしまい、 時々竿尻を腹に当てて、ポンピングを繰り返した。
こんなことは、滅多にない。
少しでも竿を上げることができたら、 すかさずその分を巻き取る。 糸が出そうになるぎりぎりまで指ブレーキをかけ、
走ろうとするヒラマサの勢いを止める。 竿を左右に振って、走る方向をはぐらかす方法も試みた。
無我夢中とは、こういうことをいうのだろう。
善戦の甲斐あって、ヒラマサは徐々に上がってきた。
しかし、油断は禁物。 玉網に入るまでは、一瞬たりとも気が抜けない。
姿が見えた。 で、でかい!と思わず叫んでしまった。
気合を入れて
右手に玉網を持ち、ざばっと掬った。 ふーっと、安堵のため息とともに、 デッキに座り込んだ。
どのくらいの時間が掛かったかは覚えていない。 普通なら、時計を見るのだが、 そんな余裕など、あろうはずがなかった。
それもそのはず。体長101cm。
初のメーター級のヒラマサ。 釣三丸新記録の更新である。 しばし、その大きさに見とれていた。
時刻はまだ午前10時にもなっていなかったが、
これで納竿することにした。 めいっぱいやり取りし、大物をネットインさせた後は、 幸福感に浸りながら帰港するのがいい。
解体作業も待っているし・・・。
それにしても、よくリーダーが切れなかったものだ。 鈎は二本とも口の中にがっちり掛かっていたが、
一本は、真ん中から、ポッキリと折れていた。 まさしく、薄氷を踏むような勝負だったのである。
仕掛けは、いつもと同じ。
国産PE0.8号ラインに4号ナイロンリーダー6m。 鈎はチヌ鈎の5号。 そして、タイラバは、釣三丸スタンダードであった。
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