百足バトル

ムカデと書けば、鳥肌が立つ。
百足なら、幾分気持ちも収まる。
百足と記すことにより、
だらだらと長い話となるが、
百足については金輪際書かないだろうから、
暇な方はお付き合い願いたい。

こいつは、鋭い二本の牙で敵や獲物に噛み付く。
牙の先には毒があって、
獲物は麻痺して動けなくなり、
敵は痛みに苦しむ。

夜行性で、夜の間に屋敷に忍び込む。
目がほとんど利かないから、
赤外線に反応する。
獲物や敵が発する赤外線だ。
生き物はほとんどすべてそれを発する。

百足は人間が大好きだ。
夜眠っている人間のところへやってきて、
そここことなく、這いずり回る。
人間の発する大量の赤外線を目印に押し寄せる。
餌がいるものと勘違いしているらしい。

むずむずするからと思わず手で払いのけようとすると、
百足は敵の攻撃だと思い、思い切ってガブリ!
その後の激痛については、想像におまかせする。

私は、マダイと同じくらい真面目に、
百足の研究に専念してきた。
「百足.net」 を立ち上げようかと思ったくらいだ。
楽しそうでないので止めはしたが、研究は続けた。

百足恐怖症という病気を防ぐ為だ。
古別荘は当然のことながら、
百足などの害虫の侵入する隙間が、
どうぞお入りくださいと言わんばかりに多い。
築60年だから、いたしかたない。

別荘は自然豊かで風光明媚な所だ。
島は景色が良く、人々も優しい。
が、唯一とも言える短所が、百足が多いということ。

古い木造建築物である我が別荘には、
蜘蛛やゴキブリなど、
百足が好む獲物たちがわんさと居住している。
それを目当てに百足も忍び込んでくる。

ゴキブリホイホイを家中に仕掛けたら、
それらがびっしりとへばりついていた。
身の毛もよだつほどびっしりだった。
ついでに百足も3匹捕獲することができた。
ホイホイも一つの駆除手段ではある。

蝿たたきを購入して、
百足を見つけると、血眼になって打ちまくった。
蜘蛛さえも一匹残らず蝿たたきの餌食となるように頑張った。

殺さずに済む方法は無いものかと、
忌避剤なるものを二種類購入した。
百足の嫌がる匂いを家中に充満させて、
侵入を防ぐというものだ。
数千円もしたのもあって、少々たじろぎはしたが、
無理して試してみた。

結果は、ノーグッド。
全く効果がなく、百足の侵入は続いた。

夜、安眠できないと、早期撤退ということになる。
せっかく手に入れた夢の楽園生活をやめるわけにはいかない。
そこで、ドーム型の蚊帳を手に入れたというのは、
以前にもエッセイで書いた。
効果は抜群で、睡眠だけは確保できるようになった。

寝るに困らなくなったものの、
睡眠時以外は文字通り蚊帳の外。
百足に怯えていなければならない。
夜、文章を書く作業をしていると、
体のどこかがむずむずっとする。
さっと立って、服を脱ぎ、ぱたぱたとはたくと、
ポロッと百足が床に落ちるということも何度かあった。

このような経験が重なると、
神経が過敏になり、いい文章が書けなくもなる。
落ち着いた別荘暮らしとは程遠くなるというものだ。

この夏、島のホームセンターを散策していると、
殺虫剤コーナーがあって、
不快害虫用殺虫剤というものが大量に置かれていた。
これだけ多いということは、
島の皆さんはこれを好んで購入しているということだろう。
さっそく試してみることにした。

消石灰のような、粉末クレンザーのような、
白い粉を家の周りに帯状に丹念に撒いた。
僅かでも撒きそびれたら、
そこからよじ登ってくるかも知れないと、丹念に。
玄関前には特に多めに撒いた。
別荘の玄関の隙間が最も広かったからだ。

次の日の朝、弱って虫の息になっている百足が土間にいた。
次の日の朝もいた。
やっぱりな。ここから入って来ていたんだなと思った。
しばらくすると、警戒されたのだろうか。
玄関からは入って来なくなった。
と思ったら、玄関の外に弱っていた。

それからというもの、
家の中で百足を目にすることはほとんど無くなった。
しかし、油断禁物。例外もある。

殺虫剤散布前に侵入していた百足が一匹いたこと。
そして、大雨が続いて薬剤がすっかり流されてしまった後、
一匹が侵入したことの二つである。

今では、ここ数週間、屋内での発見は皆無である。
粉末殺虫剤がもっとも効果的だった。
百足に限らず、蜘蛛もゴキブリもほとんど目にしなくなり、
真新しいゴキブリホイホイは、いつまでもまっさらな状態だ。
役に立っていないほうが、安心するのだ。
かかり始めたら、要注意で、薬剤散布のやり直し。

これだけ効き目のある薬だから、
住人にも悪い影響を与えているだろうが、
百足の侵入による多大なストレスに比べると、
微々たるものだと思っている。
背に腹は代えられぬということ。

秋が深まると、侵入の危険度は増す。
屋外より暖かい屋内で冬を過ごそうと、
百足が大挙して押し寄せるのだ。
先日、小さな百足の死骸をいっぺんに9匹も見つけた。
幼虫の内に侵入しておこうという魂胆だ。
それを許すと、屋内で成長し、被害をもたらすようになる。
油断も隙もあったものではないのだ。

古別荘暮らしに欠かせないもの。
ドームテント型の蚊帳をひと張り。
そして、粉末殺虫剤をいっぱい。
タイラバ師のもう一つのバトルは地味に続いている。

朝起きて、外の空気を吸いに出る。
ついでに家の周りを見て回る。
昨朝一匹、今朝も一匹、
大きな百足が転がっていた。
小さな勝利を噛みしめた瞬間だった。



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