防波堤釣りのような

若いころ防波堤にはよく通った。
大雨、大時化以外は大抵釣りになった。
休日には毎週のように、波止で竿を振ったものだ。
長い時には、早朝から日の暮れまで。
時間の経つのを忘れて、熱中していたのが懐かしい。

波止釣りの良さは何といっても、その手軽さにある。
好きな時に車で目的地に行くことができる。
車を持つ余裕は無かったので、50ccのバイクで行った。
一日分の餌を買って、使い切ったら納竿ということにしていた。
夜が明ける前に起きて、おにぎりを作ったこともよくあった。

めぼしい釣果といえば、筆頭はクロダイだった。
足の裏(30cm弱)でも釣ろうものなら、
それはもう、鬼の首でも取ったように有頂天になった。
ごくまれに、キロオーバーと思(おぼ)しき大物も掛けたが、
一度も上げきれずにハリスが切れた。

誰もが楽しめるのが、波止釣りだ。
手軽に、時間にとらわれずに釣りができる。
しかし、大物が釣れることは滅多に無かった。

私の今の釣りは、波止釣りとほとんど変わらない。
好きな時に出港し、時間を考えることなく、釣りをする。
鯛ラバだから、道具も仕掛けもシンプルで手間要らず。
鈎作りのみ面倒だが、それも二十分間の辛抱に過ぎない。

餌が要らないので、沖アミを解凍する必要もなく、
残った餌に悩むこともない。
バッカンやひしゃくも無いので、
道具は波止釣りよりずっと少ない。

なあんだ。波止釣りよりも手軽にできるんだ。
と、あらためて思ったりもしている。
もっとも、船という大道具が必要だが、
それを除けば、おそらく最も手軽な釣りではないか。

ライトな釣りだが、ヘビーな獲物が釣れるのも、
鯛ラバの大きな魅力だ。
餌釣りやジギングなら、手間や体力を考えると、
凪の日は毎日やろうという年齢ではない。
鯛ラバだから連日でも続けられる。

軽いタッチで、極上天然マダイの大物が釣れる。
波止釣りの頃は、夢にも思わないことだった。
それが現在、気軽な波止釣り感覚で、
大きなマダイを掛け、玉網ですくっているのだ。

港を出て沖へ向かうときがいい。
今でも、これは夢ではないだろうかと思っている。
波止釣りでは、思わなかったことだ。
その違いは何か。
それはひとえに、期待感の大きさによるものだと思う。

まことに手軽に、手間を掛けずに、
毎回のようにいい魚を手にし、
満足を得られるような釣りが他にあるだろうか。

島の海の恵みと、優しい島の人々の支えが、
それを可能にしていることは言うまでもない。
この島ならではのことでもある。

そして、青年の頃、30cm足らずのクロダイを、
防波堤で釣っては、歓喜していたという経験があるからこそ、
今の釣りの価値の大きさが実感できているのだと思っている。



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