風邪

こういう話を書くと、
それ見たことかと、風邪を引くかも知れないので、
あまり大きな声では言えない。

仕事を引退して二年と半年が過ぎた。
不思議なことがある。
それは、一度も風邪を引いていないということ。
誇張でも何でもない。熱すら出したことがないのだ。
つまり、二年半も体温が37℃を超えたことがない。

元々風邪を引きにくい体質かと言えば、
まったくそんなことはない。
かつては、風邪の時期になると、
必ずと言ってよいほど、よく風邪を引いた。
扁桃腺肥大もあって、普通人より感染率は高いはずだ。

胃腸もあまり丈夫なほうではない。
腸には体内でもっとも免疫細胞が集中しているから、
それがやられると、途端に風邪を引きやすくなる。
ここ二年半、風邪は引かなかったが、
人生初の胃潰瘍には何度か苦しめられた。
ピロリ菌は陰性だったにもかかわらず。

かつては、風呂上りに油断して湯冷めなどして、
寒気を感じると、「やばい!」と思ったものだ。
そして、たいてい、熱が出た。

週末は特にいけなかった。
疲労が蓄積している金曜日は要注意で、
背中がぞくぞくしてきて、
貴重な土日を熱にうなされて布団で過ごす。
そういうことが何度あったことか。

ところが、今は、まるで大丈夫。
湯冷めをしようが、薄着でくしゃみを何度しようが、
がたがたと震えて悪寒が走ろうが、
そのあとが続かない。(風邪を引かない。)

原因を考えた。
まず、ストレスが無いこと。
いや、無いことはない。
時化(しけ)ストレスや、百足ストレス、
猛暑及び寒冷ストレス、孤独ストレスなど、
まあ、ほどよくはある。
が、仕事時代と違って、
対人ストレスがほとんど無いのは確かに大きい。
嫌な人間とは付き合いを絶っている。

そもそも都会と田舎では、ストレスの基盤が違う。
人間もかつては野山を駆け回っていたという、
人類史的遺伝子が刻み込まれている。
自然の中に居ないと、
それだけでストレスを感じるようにできている。
アスファルトとコンクリートの森は、ストレスの巣窟である。

食生活はいたって良好。
鮮魚とうまい米。食欲は常にある。
海へ出ることが多い。
そのたびに、リフレッシュするし、いい運動にもなっている。

以上が、風邪を引かない理由の数々だが、
決定的に重要なことを思い出した。
それは、ほとんど人と接しないということである。
仕事時代と比べると、百分の一かそれ以下。
今は、店のレジ係の人と接するくらいだが、
彼らはたいていマスクをしている。

周知のごとく、風邪やインフルエンザなどは、
飛沫感染である。
くしゃみやせきによってウイルスが飛び散って、
それを吸い込んむことによって感染する。
人と接しないと、飛沫を浴びることはないし、
浴びなければ風邪を引くことはない。

胃腸が不調になったとしても、
疲労して体力が弱っていたとしても、
あるいは、寒さにふるえ続けたとしても、
ウイルスが体内に入ってこなければ、風邪を引くことは無い。
人と接しなければ、風邪を引かないということを、
これまでの二年半で実証できたのではないかと思っている。
田舎でひとり暮らしをすれば、
ウイルスとの付き合いもしなくていいのは有難い。

もし今後、風邪を引くようなことがあるとすれば、
それは、ウイルス保持者からまともに飛沫を浴びた時だろう。
その時の体調がウイルスの受け入れに適していれば、
(不健康な状態なら)症状が出る。という、単純な話ではある。



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